Wikipediaのサイフォンの原理の説明が書き変わっている…が記述としては酷いまま

サイフォン - Wikipedia(2010年12月25日に書き変わったバージョン*1
以前の「液体の移動によって管の内部に真空を作りだし、それにより液体を吸い上げる」という説明はデタラメそのものだが、今度の「エネルギー保存則(ベルヌーイの定理)が成り立つため」というのも間違いである。
系全体の流体の位置エネルギーの変化分が、流体の運動エネルギーに化けて、最終的に粘性摩擦で熱エネルギーに変わっていくので、エネルギー的な考察が説明に入る部分が悪いとは言い切れない。けれども「エネルギー保存則が成り立つ」と書いているわりには、どの範囲で「保存則」を考えているのかが曖昧である。そこに「ベルヌーイの定理」と書き加えているので記述のデタラメ度が一気に上がっている。
というのも、ベルヌーイの定理をサイフォンの管の内部の流体の運動に当てはめると間違った答えが導かれてしまうからである*2
ベルヌーイの定理は大雑把には「縮まない流体の定常な流れで物理量 \frac12\rho v^2+p+\rho g h (ρは流体の密度、v は速度、p は圧力、g は重力加速度、h は基準位置からの高さ)が保存される」という定理なのだが、管の断面積が一定ならば、管の内部の流れは管のどの部分でも v が一定なので、 \frac12\rho v^2 が一定となる。これより「圧力と重力ポテンシャルの和 p+\rho g h が一定」という結論が出る。この式はパスカルの原理と言われて、静止している流体でしか成り立たない式である。(動圧も含めた)圧力 p の大雑把な見積もりにも使えない。ここまで大きな間違いは説明の便法としても不適切である。
サイフォンは大雑把には管の入口と出口でかかる圧力に差があるから流れるのであって、その圧力差を計算できない説明は原理的におかしい。

2013.12.15 追記

いま読み直すと「これより「圧力と重力ポテンシャルの和 p+\rho g h が一定」という結論が出る。この式はパスカルの原理と言われて、静止している流体でしか成り立たない式である。」の部分は、一読するとヘンテコなことを書いている。たぶん、このときは

ベルヌーイの定理の p を定理の字義通りの「熱力学的圧力」と考えた上で、管の内部の平均の運動エネルギー密度とポテンシャルに適用すると、管内に流れを形成する圧力勾配の存在(∇p のうちで、重力 ρg ではなく、ながれ u と釣り合う部分の存在)が説明できなくなる。
サイフォンの管の内部の質量分布、温度分布は定常なので、熱力学的圧力と重力が釣り合うのは静止流体しかないではないか。
ただし水理学での「ベルヌーイの式」では p に「粘性散逸」「乱流による圧力損失」などが「水頭」として繰り込まれているので、p をその起源に基づいて分解すれば、p のうちの熱力学的圧力の部分が入口の高圧から出口の低圧にむかって滑らかに減っていき、管の外の2個の容器のそれぞれの環境と滑らかにつながることと矛盾しない。*3
という趣旨だったように思う。かなりミスリーディングで読みづらい文であったと反省している。

*1:編集履歴http://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%B3&diff=35560751&oldid=34616653 以前の酷いバージョンと今度の酷いバージョンの比較ができる。

*2:もともと粘性流体の運動に Bernoulli の定理は使えないじゃない、というツッコミはなしとしても。

*3:2013.12.15 ちがう ちがう ちがう ちがう!ベルヌーイの式を用いても「管の外にある2個の容器の液面の高低差」という管軸の流れの線に沿って測ることのできる物理量ではないパラメーターを用いているじゃないか!管軸に沿って測れない量を、管軸にそった物理量で構成された式の中に持ち込んでしまって、「原理的に説明できる」なんて言って良いわけないんじゃないか?