空気はなかなか読めないもの〜考えるカラス:第3回:台車と風船のネタバレ
「考えるカラス」というNHK教育の番組がある*1。「かなりドSなスタンス*2」の番組で、毎回、[観察]⇒[仮説]⇒[実験]⇒[考察]を強調しておいて、「観察」だけを見せて解説の途中で番組が強制終了して、こどもたち(当然、先生にも)に答えのないまま考えさせるという、いままで見たどの科学番組よりも「科学的(むしろ科学者的?)」な番組である*3。
番組の趣旨からして、ネタバレをウェブでやるべきではないのかもしれないけれど、ネットに出まわっている「こたえ」を「Google先生に訊いてみる」と結構まちがっているので、書いてみる。多分、小中学校の理科の先生にも、結構、誤概念があるかもしれないと思うからだ。
問題はこうだ*4
台車の上に風船をとり付け、透明の箱をかぶせる。この台車を前に押すとどうなる?
- 押す方向と逆、後ろにたおれる
- 前にたおれる
- そのまま、たおれない
これは結構、有名な物理の実験で、結果はこうなる。
答えは、「2.前にたおれる」でした。
さて、どうしてでしょうか?
また、それはどんな実験をすればわかるでしょう?
みなさんの考えを送ってください。
この実験のカギは「台車を動かし始めたときの出来事」つまり台車が加速度を持つということだ。風船は加速に伴う斜め後ろ向きの見かけの重力の正反対を向いているだけ。このとき箱の中に風船を動かせるほどの風は吹かない(ただし圧力の分布は変わる*7)。もしこの実験が体育館のような広いところで行われ、台車を押す速さが一定になったら、前にたおれていた風船の向きはまっすぐ上向きになる。*8
「考えるカラス 風船 台車」でググるとさまざまな回答が出る。2013.10.14の検索上位10件で関連するものは次のものがあった:
- http://katochan-tyumoku64.blog.so-net.ne.jp/2013-08-07 個人のブログ:「説明」を書いている
- 考えるカラス 2chのスレ:「説明」を書いている
- 考える練習「台車と風船」の考察 - GR ~ゲームなどで思うことを書いていく~ 個人のブログ:回答は留保してる
- Eテレ「考えるカラス」考える練習 解答・解説まとめ - NAVER まとめ まとめサイト:いくつかの引用:「説明」を書いている
- NHK考えるカラスという番組での回答はでないのですか?風船の問題でなぜ前に風船... - Yahoo!知恵袋:「説明」を書いている
- http://ameblo.jp/carmona/entry-11539731905.html 個人のブログ:回答は留保してる
- 考えるカラス(NHK for School)…これは素晴らしい科学番組だ~!: 正多面体クラブ 個人のブログ:回答は留保してる
このうち正しい解説に一直線にたどり着いていたのは2chのスレしかなかった:
>>20表現の微妙なものが1件(NAVERまとめに言及されていたページ*9)
説明では慣性を出してたけど、振り子になぞらえると分かりやすいかも。
空気より重い物の場合、箱の天井から吊すと鉛直にぶら下がる。台車を動かすと引力と加速度の合力の方向に吊り下がる。
空気より軽い物の場合、箱の底からぶら上がる(言ってみたかっただけ)。台車を動かすと引力と加速度の合力と反対の方向につり上がる。 慣性での説明だと箱の中で空気が重いから後ろに取り残されるって説明になるんだろうけど。
箱無しの時も同じ力は働くけど風に押される力の方が大きくて影響が現れなかった
>>22
浮力は重力と反対方向に働く
台車が前進すると見かけの重力(重力+慣性力)の反対方向に浮力が働き風船は進行方向に動く
空気が進行方向と逆に動く(慣性力)から空気より軽いヘリウムは浮くので逆方向に動くと考えたけど違うかな
つまり、力学台車が動いたところで、風船やその周りの空気は止まったまま。にもかかわらず、力学台車が前に進めば、糸が前に行くので、風船は後に傾くことになる。これは電車の中にいる人が、電車が前に進めば、足が前に行くので、人は後に傾くことになるのとまったく同じ。*10これ以外は全部、「中の空気がかたよる」という推論をしていた。そういえば、自転車やバイクでは乗っている人は乗り物とともに動いているのに、周囲の空気は止まっている=相対的に空気は動いているから、顔は激しい風を受けることになります。ところが、同じ速さで走っている電車の中の人は、
電車内の空気がほぼいっしょの速さで動いている=相対的に止まっているので、風をあまり感じないのですね。*11
とはいえ、急発進すれば、電車内の空気が「後に傾く」ため、空気より軽いヘリウム風船は前に追いやられるしかないわけです。*12ということは、急発進した電車の中では風船は前に傾き、電車の外では風船は後に傾くことになります。
急発進時に「自分(密度の高い物体)」が引っ張られる感覚を、そのまま「空気(気体)」に当てはめて推論をしている。しかし風船の動きに比べたら気体は反応がとても速いので、密度のぶれがおきたとしても、すぐに一様な状態にもどってしまう*13ので、台車の上の箱の中では風船を傾かせるほどの風が吹くことはない。
箱の中でどの程度の風が吹くか調べるには、軽い糸を箱の天井からぶら下げて実験するといいだろう*14。
ついでに見かけの重力の影響を見るには、軽い糸の先に重いおもりをつけて、おもりを付けない糸と振れ方の違いを見るといいだろう。[2013.10.23追記]あれま、「考えるカラス」第12回で「おもり」として「水を入れた風船」を使ってこの実験やっちゃった。ね、うしろに振れたでしょ。
*1:番組サイト http://www.nhk.or.jp/rika/karasu/ 2013.10.13現在、録画が無料で見られる。ありがたいことです。
*2:http://shimasho.blog.jp/archives/51894451.html http://shimasho.blog.jp/archives/51894451.html
*3:ところが、うちの子に訊くと学校でNHK教育の番組を見ることはないそうだ。岡山県ってそんなものなのか?
*4:https://www.nhk.or.jp/rika/karasu/origin/tr03.html
*5:画像URL: https://www.nhk.or.jp/rika/karasu/origin/img/tr03/v_pic01.jpg
*6:画像URL: https://www.nhk.or.jp/rika/karasu/origin/img/tr03/v_pic02.jpg
*7:次のブログに圧力分布の変化の考察がある:narimasa1561.hatenablog.com
*8:この段落は2019.5.2に追加。連休中の4月30日に第3回の再放送があったみたい。
*9:http://rikatime.blog110.fc2.com/blog-entry-105.html
*10:この推論では「風船を箱で覆った場合」「覆わない場合」の区別がつきにくくなる。とくに何に対して「風船やその周りの空気は止まったまま」なのか全く分からないので、ミスリーディングである。また「人は後ろに傾くことになるのとまったく同じ」はウソ。なぜなら「風船」は風圧で後ろに傾くが、「人」は急加速による見かけの重力の向きに引っ張られるので傾く。
*11:ここで「台車の上の物が感じる風圧」に言及しているけど、説明の流れ的にはミスリーディング。
*12:結局、よくわかっているのかなんなのか分からない日本語になっている。
*13:温度が一様の空気で密度の変化が起きると、風よりも音波や衝撃波の方ができやすい。
*14:ひょっとすると風船が急に動くことでできる気流にひっぱられるかも。