3行で語るlim(1+1/N)^N(ここでは自然数)の由来

授業のための覚書
ネイピア数eの定義がなぜあの形か,先生は説明をしてくれなかった | ロボット・IT雑食日記
学習したことを内省して概念化して理解を深めていくプロセスってこんな感じだよなあ。てゆーか、ボク自身も受験勉強の最中(とそれ以降)は無自覚、無批判に

指数法則a^{x+y}=a^xa^y, a^{xy}=(a^x)^yが任意の実数 x, y で成り立つ
ことを受け入れて式変形にいそしんでいた。
それって社畜ならぬ数畜?
具体的に「0.5回の掛け算」って実行できる?「0.5回の掛け算」は「平方根」で平方根は「開平計算*1」や「バビロニアアルゴリズム*2」で値を求めることができて…という風に、「同じ値を与える(とせんせーがゆっていた)別の方法」に焼き直して計算していない?先生に言われるままに\sqrt{2}=1.4142...を受け入れてなかった?

eの定義と万能の指数

ボクはここ数年の数学の授業では次の話を振ることにしている:

\underbrace{(1.001)\times(1.001)\times\cdots\times(1.001)}_{694times}=2.001...\approx2 だから  \underbrace{(1.001)\times(1.001)\times\cdots\times(1.001)}_{347times}=1.414...\approx\sqrt{2} じゃね?
この計算って1.1, 1.01, 1.001, 1.0001, ..., 1.00...001って細かくしたら、どんどん値が正確になるし、x=(1.00...01)^N で1より大きいどんな数でも作れるから、究極の「n乗根計算表」って作れね?*3
例えば\sqrt{2}
\sqrt{2}\approx(1.1)^{3}\approx(1.01)^{34}\approx(1.001)^{346}\approx(1.0001)^{3465}\approx...
ただこれでは指数の桁が膨大になるので、指数に小数もOKという風に指数のかけ算ルールの定義a^{xy}=(a^x)^yを拡大して
\sqrt{2}\approx((1.1)^{10})^{0.3}\approx((1.01)^{100})^{0.34}\approx((1.001)^{1000})^{0.346}\approx((1.0001)^{10000})^{0.3465}\approx...
となる。ここで出てきたのがネイピア数 e
(1.1)^{10},(1.01)^{100}, (1.001)^{1000}, (1.0001)^{10000}, ..., \displaystyle e:=\lim_{N\to\infty}(1+\frac{1}{N})^N=2.718...
くそまじめな整数回の掛け算が考え方の基本になっているので、これは値を求める計算のアルゴリズムが明快。逆にいくつかの参考書で見かける定義 \displaystyle e:=\lim_{x\to0}(1+x)^{\frac{1}{x}} は直接のアルゴリズムで書けない「実数回の掛け算」がコッソリと導入されているので、いただけない。

ついでにeの定義を使わずにロジックだけで対数関数、指数関数の導関数を求める

高校までの微分積分の知識(合成関数、逆関数導関数微分積分が逆演算)が一通りあるなら、こんな導出もある;

  1. 対数関数は f(xy)=f(x)+f(y)…(1) を満たす微分可能な関数。
  2. (1)に x=1 を代入すると f(1)=0 とわかる。
  3. (1)に x=0 を代入すると f(y)=0 になっちゃうのでf(0)は定義できない。
  4. (1)をy微分すると、x\,f'(xy)=f'(y) なので、これにy=1を代入すると f'(x)=f'(1)x^{-1}
  5. だから対数関数は \displaystyle f(x)=f'(1)\int_1^x\frac{dx}{x} である。つまり  \displaystyle y=\frac{1}{x} のグラフを描いて面積を求めれば対数の値が求まることがわかる。*4
  6. ついでに対数関数は f'(x)=f'(1)x^{-1} なので、対数関数の逆関数gとする)の導関数逆関数導関数の公式より g'(x)=g(x)/f'(1) となる。というわけで指数関数(対数関数の逆関数)の導関数の公式が求められる。

*1:開平法 - Wikipedia

*2:Methods of computing square roots - Wikipedia 日本語のWikipediaには載っていない。

*3:ネイピア数 - Wikipediaの「歴史」「定義」の項のベルヌーイの利子計算の話を参照。

*4:f'(1)の値は対数関数の底をaとするとき、f(a)=1からf'(1)=1/\log_eaを導出できる。ここで\displaystyle\log_ex:=\int_1^x\frac{dt}{t}とする。