三角比は計れるけれど…。

新井紀子さんのブログ:テイラー展開をどう伝えるか - researchmapを拝見する。「生き抜くための数学入門」でのマクローリン展開を利用した cos(x) の x=15[deg] での値の計算の話(でいいのかな?)を中学生に教えることと、それに対する批判と、それへの回答である。

エントリの中に「ウソ」がひとつあった。それは

三角関数というものを高校で勉強するけれども、これは定義から計算方法はまったくわからない
とあるが、三角関数の定義から直角三角形の三角比を求める問題に落とし込んで、それから分度器と三角定規を用いて三角形を描いて辺の長さを計ればよい---ただし実用的な精度はまず得られないけれど---からである。四則演算のアルゴリズムに落とし込むだけが、数値を求める方法ではない。

氏の授業では「計算できること」が強調されているようだが、このエントリと「計算とは何か」を読んで強調が弱いなとボクが思う点は「いったん確定したラジアン単位の数値が与えられれば実用上の必要に応じた精度の数値の取得が四則演算の組み合わせのみで必ず実行できること」である。…しかし、現実の問題として角の値をラジアン単位でどこまで精確に与えることができるであろうか?*1

氏の著書を読んで「数学ワールド」と「リアルワールド」の接点を強調する割には、「リアルワールド」を数値化するときにあらわれる誤差(正しくは「不確かさ, uncertainty」)への「目配せ」がかなり弱いな…と感じている。(しかし「計算とは何か」のあの短い紙幅にあれだけの内容をあれだけの表現で詰め込んだ事実を目の当たりにして、ボクのささやかな不満は「無いものねだり」であろう。

現況の日本の高校までの自然科学教育では「不確かさ」「有効数字」の教育がデタラメである(過去の学習指導要領で「有効数字」を検索してみる - あらきけいすけの雑記帳*2。おそらく数学の側からきちんとアプローチしないと、理科の時間だけでは扱いきれないんじゃなかなあ(勝手な憶測だけど)。それに有効数字は指導要領を見ると「数学」のもののようだし。

[2010.2.19] セオドライト(トランシット)の精度はどれくらいかと調べたらデジタル式で5秒をうたっているものを見つけた。これなら 5[sec]/3600[sec/deg]=1.4×10-3[deg] なので deg で2桁の量の計測なら4桁程度の精度は出そうだ。

*1:ただしここまでの話を授業に盛り込むと、とてつもない泥沼になってしまうだろうから、「計算の実行可能性」にターゲットを絞る授業では、この話に触れないほうが得策だろう。

*2:大学受験というペーパーテストに照準が定められているというのも拍車をかけているだろう。