アナ雪とパロディーの女王、あるいはQ:エルサを守って凍ってしまったアナを溶かしたのは誰だ?

A:もちろんアナ自身である。アナのエルサへの真実の愛から出た行動が、アナのハートに刺さったエルサの呪いを解いたのだ。
酔っ払いオヤジが3人でクダを巻いて居酒屋談義をしてるよな記事を見た。私が見たのとはまったく違う「アナと雪の女王」が存在したんだろうかという感想をボクも持った。ツッコミたい部分は山のようにあるが、東浩紀氏の次の発言は目が点になった:

東:つまり、エルサの呪いでアナが凍って、エルサの愛でアナが溶けたんでしょ? 完全に自己完結だよね。
「アナと雪の女王」のクリストフはなぜ業者扱いなのか? 夏野剛×黒瀬陽平×東浩紀の3氏が男性視点で新解釈 | ハフポスト
素直にそう見たんなら東氏の理解力に疑問符が付くし、話を盛り上げるための発言だとしたら(作者に対して)悪意ある「新解釈」としか思えない。記事そのものが釣りだし、デリダ、浅田の昔から思想家評論家は世間とずれたヘンテコなことをいうのが商売だから目くじらをたてるほどでもないのだが、アナを溶かしたのはアナ自身というのは我が家の小学4年生もひっかかったのでメモしておく。
「アナ雪」はディズニーがディズニーをパロっていて面白い。というのも、エルサの氷の魔法がハートに刺さって、トロールのグランパビーに "only an act of true love can thaw a frozen heart (真実の愛の行いだけが凍ったハートを溶かすことができる)" と呪いを解く「おまじない」が告げられたところで、「フィアンセのハンスのキスが…」とみんなが言い出してしまい、ディズニーお約束の「シンデレラストーリー」へと観客にミスリードした挙句、実はハンスは裏切り者、、、というところで1回目のパロディー
王子様のキスなんて、そんな安直な解決、いまどきねーよ!
を観客にかましている(素直な子供は泣いたかもねー)。
ここでリザーブの「王子様」のクリストフの出番を作って、着々と観客を(実はフェイクの)「王子様のキス」に引っ張っている。2度もひっかけるってヒドくね?
そしてクライマックスで「クリストフとキスして自分が助かる」「ハンスに殺されかかっているエルサを助ける」を天秤にかけて、アナにエルサをかばうアクションを起こさせている。つまり
"an act of true love" が「王子様のキス」なんて、いまどきそんな安直な展開ねーよ!
と2回目のダメ押しのパロディーをしている。まあ「王子様のキス」と「命がけで盾になる」のでは重みが露骨に違う。
そんな重みの違うものを対比させたあとに、「女王の悲しみの涙」程度で溶かすなんて安直なことはしていない(けれど、そう取られても仕方ない画面構成にはなっていたと思う)。
凍り付いたアナを溶かしたのはアナ自身である。
まずアナが解け始めたときに、心臓のまわりから解け始めている。注意すべき点はエルサの姿勢。エルサの姿勢は画面構成的にアナの胸元がはっきり見える位置まで不自然にくずおれている。「涙」「手の温もり」なんかで溶けてはいない。
そしてこれに続くアナとエルサとオラフのセリフが説明的にダメ押しをかける。
Elsa: Anna?
Anna: Oh, Elsa.
Elsa: You sacrificed yourself for me?(私を助けるために何てことするの?)
 直訳:あなたはわたしのためにあなた自身をいけにえにしたのですか?
Anna: I love you.(大切な人だから)
Olaf: An act of true love will thaw a frozen heart.(真実の愛が凍り付いた心を溶かしたんだよ)
 直訳:真実の愛の行動が凍ったハートを溶かすであろう(トロールのお告げを復唱している)
Elsa: Love will thaw...(愛は氷を溶かす)
Elsa: Love. Of course.(愛。そうよ)
Anna: Elsa?(エルサ?)
Elsa: Love.(愛よ)
 (この辺でエルサはようやく魔法をコントロールするツボ、つまり魔法を隠し他者を拒絶して恐れおののくのではなく、積極的に献身的に他者に関わることで魔法を制御できることを理解して、氷を溶かし始める)
Anna: I knew you could do it.(出来るって言ったでしょ)
というわけで、あの中で一番の献身的な行為(act of true love)をしたのはアナ自身であり、それが氷を溶かしている。惜しむらくは
「アナの胸元だけはわずかに凍らずに残っていて、エルサはそれに気が付かずに悲嘆に暮れる」みたいな演出
があれば、観客にも視覚的に明快だったに違いない。実際の画像ではアナは全部凍って、死を示唆するように息を吐いている。
というわけで、正解は「アナ」(自己犠牲の行動を美化するお話には引っかかるものがあるけどね)。
追記というか書き忘れ:エントリのタイトルに「パロディーの女王」と書いたのは、監督(共同)・脚本(共同)がジェニファー・リーという女性だから。
追記:はてなブックマーク - アナ雪とパロディーの女王、あるいはQ:エルサを守って凍ってしまったアナを溶かしたのは誰だ? - あらきけいすけの雑記帳でいくつかの気づいていなかった大事な指摘をもらった。ありがとうございます。追記:2014.8.21 いくらか書き足した