Langは「ε-δ」に関してこう説得した

教育用の覚え。まずε-δに批判的な自分自身*1へのカウンターバランスとして。そして教育が「目先の有用性」に引きずられていくことへのカウンターバランスとして。

この付録をマスターするために必要な抽象思考と用語法は、本書の他の部分で要求されるものにくらべて、かなり程度が高い。われわれは、直観的に明瞭なことを’証明する’という面倒なことにまきこまれる。したがって、もし諸君が理論にそれほど興味をもたないならば、あるいは、現時点では解析学の基礎を厳密な形で学習することを望まないというのであれば、この付録をそう厳格に受け取る必要はない。この付録では、解析学において基本的な、二三の概念および手法が述べられる。これは、ここで述べられるテクニックが本質的な意味をもってくるような、より高度の解析学---そこでは、さらに複雑かつ精妙な計算が要求される---を諸君が将来学ぶときにそなえて、ある種の思考法を諸君の頭に植えつける最初の機会なのである。たとえ最初の学習で十分に理解できないにしても、基本的な材料をひととおり眺めておくことは、有用なことである。人の心の働きには、ものごとを’接近法’によって、すなわち漸次それに馴れていくことによって学ぶという部分があるからである。さらに、ある段階での知識は、次のよち深い段階で用いられることによって、はじめて完全なものとなる。したがって、むずかしいことを学べば、たとえそれ自身については限られた理解しか得られないにしても、その前の段階のやさしいことを完全に理解するためには大いに役立つのである。
ラング著, 松坂, 片山訳, 『解析入門 原書第3版』, (岩波書店, 1978) p.379-380.