「スターウォーズ/フォースの覚醒」、あるいは新しいディズニー・ヴィランの誕生

「第3デススター*1」の「拡散波動砲*2」が火を噴いたとき、心の中でひそかにあれは憎しみの光だとつぶやいてしまったのは誰にも内緒です。


ディズニー作品をそんなに見ているわけではないので、ヴィランズにどんな類型あるか知らんけど。


20世紀フォックスのオープニングファンファーレが失われ、単行本の帯が失われたかのような喪失感とともに物語は始まる。
主人公のカイロ・レン(異論は認めない)がとても魅力的。前6作が壮大な「父帰る」ストーリーであり、エピソード3を作って、ようやくエピソード6の表題「ジェダイの帰還」を回収したあとに、奴隷業者ディズニーが何をぶつけてくるのかと思ったら「あすなろ物語」だったのでビックリ。やっぱスターウォーズって主人公の「成長譚」だよね。
ここのところディズニー映画は「ラプンツェル(entangled)」「メリダ(brave)」*3「アナ雪(frozen)」と形容詞・過去分詞1単語路線のフェミ全開の進歩的な「(か弱い)お姫さま」否定路線を突っ走っているし、「アナ雪」のエルサや「マレフィセント」のように純真な主人公の闇落ちストーリーも描くようになっているから、半端でダイ・ハードな勧善懲悪の脚本にはならないだろうと思っていた。
カイロ・レンは生まれついての才能にあふれていながら、なぜだかグレて家族のもとを飛び出して武装集団「最初の注文」の準リーダー格(リーダーはかなりの大物…サイズ的に)としてブイブイゆわせているところから物語は始まるのだが、なんかちょっと思ったようにいかないと、すぐにキレてライトセーバーを振り回す(インパネの修理代が結構かかりそう)。お前、何歳児だ?(未熟さの描写がこどもにも分かりやすくて、さすがディズニー)
冷酷な悪のヒーローに徹しているのかと思っていたら、時々、弱気になってしまい、「闇落ち」ならぬ「光堕ち」しそうになって葛藤して、おじいちゃんの形見にゴメンナサイしているところが、ちょっとかわいい新しいディズニー・ヴィランズの誕生を告げていて、今後どのような成長を遂げるのか目が離せない存在として描かれている。…ほんとにお前、何歳児だ?
しかも、成長物語のおやくそくどおりに同じ才能を持つ強力なライバルが現れて、弱点を見透かされてオロオロするは、キーアイテムの聖剣エクスカリバー*4にはソッポを向かれてしまうはと、ハラハラする展開の連続である。今後のおやくそくの展開としては、苦しい修行による成長とライバルの打倒が来るのだが、悪を極めておじいちゃんの遺志を実現できるのだろうか?乞うご期待!
さらには「青年の成長の物語」につきものの「父殺し」すなわち親からの自立とそれに伴う葛藤とアイデンティティの確立のエピソード(描写がリアルでとてもビックリ)もあったりと、「おやくそくのキャラの造形とプロット」がてんこ盛りである。うん、これできっと精神的に成長するんだね!
というわけでエピソード8にどんな展開をもってくるのだろうかと思うとワクワクしてしまうのであった。


あと気になるのは、主人公のレイとフィンが孤児であり(レイは捨てられて、フィンは誘拐されている)、そのことを彼らがファミリーネームを持たないことで表現していること*5。これとカイロ・レンが彼の「理想の共同体」に身を投じ、家族を捨てていることとが対をなして、現在の(主に中東の?)悲惨な社会状況のアレゴリーのようにも読めることである。

*1:starkiller base スターキラー基地という名前らしい。ちなみに演説の場面で「ガ○マは死んだ!なぜだ!」と心の中で吹き替えてしまったことも内緒です。

*2:superweapon 超兵器としか呼ばれていないようだ

*3:"brave"「メリダとおそろしの森」って、制作がピクサーで配給がディズニーなんだ。

*4:エピソードVで失われてしまったはずだが…。てゆーか、失われ長いこと忘れらていた伝説上のアイテムがひょんなことから主人公の前に出てくるなんて、何て「指輪物語」?

*5:SWの主要キャスト級の「人間態」キャラでフルネーム、あるいは[役職・尊称]+[名前]が設定されていないのは珍しい設定。多分、「何者でもない」彼らが最後に「名前」を手に入れて、「所属」とアイデンティティを確立するという展開になるのかな?