要領を得ない科学記事

日本語が汚い。ツッコミどころも多い。学生の論文の指導用の小ネタとしてスクラップ。

Scienceの記事はカネを払わないと読めないから、読んでない。とりあえず大学に雑誌が届いたら読もうか。


上掲ITmediaの記事の中に

一方、同助教授は、コンピュータシミュレーションと数学的分析を行った結果、単語はある一定数の繰り返しを行えば習得できると考える。習得が簡単な単語を小さな瓶、難しい単語を大きな瓶に例えると、単語を繰り返すたびに瓶の中身が増え、中身がいっぱいになったところでその単語を習得できるというメカニズム。簡単な単語(小さな瓶)よりも難しい単語(大きな瓶)の方が多いため、習得できる単語(いっぱいになる瓶)がある時期に急激に増えるのだという。(下線はあらき)
と書いてあるが、これは
一方、同助教授は単語はある一定数の繰り返しを行えば習得できると考え、コンピュータシミュレーションと数学的分析を行った。例えて言えば、習得が簡単な単語を小さな瓶、難しい単語を大きな瓶、単語を使うたびにビンに一定の水(原文はチップ chip)が入り、満タンになればその単語を習得したと見なすことにしてシミュレーション分析をした結果、簡単な単語(小さな瓶)よりも難しい単語(大きな瓶)の方が多いと前提するだけで、習得できる単語がある時期に急激に増えることが説明できるのだという。
という意味なのであろう。多分、この段落の第1文は主文と複文が逆になっている。最後の文は英文プレスリリースの中に
As long as there are more difficult words than easy ones, the vocabulary explosion is guaranteed.
とあり、これが「爆発」がおきる前提のようなのだが、文章に反映されていない。


単語の学習を「ビンとコイン(chip)入れ」のメタファーでやれるのか疑問、という点はさておいても、この単純化された数理モデル自身の条件設定が---上記リンク先を読んだ限りでは---わからない。学習の難易度をビンのサイズに例えているけど、どのサイズのビンがどれだけの数だけ準備されているかによって、計算の結果がコロコロ変わるのではないか。学習難易度とその難易度の語彙数の間に、例えばZipf則のようなものが仮定されているのか?


記事の「ボキャブラリー急増」は発話できる語彙数のことなのだと思う。そう仮定した上で、昨年1年間の観察1例をふりかえれば(^^;(cf.2006.12.31)、発話のエクスプロージョンの前に相当な言語理解の能力の発達が見られていた。単語を「聞き取る」能力が、単語を「使う(しゃべる)」能力よりかなり早く発達していた。これを考えると語彙数の急増を「単語の学習」と結びつけることや、そもそも単語の学習を「ビン」に例えて考えるのは問題があるような気がする。