『Togetter - 「東浩紀とカンニング問題」』についての覚書

東浩紀とカンニング問題 - Togetter
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自分用の覚書。細かい経緯が負い切れない部分があるので、事実誤認等もあるかもしれない…という前提があるのだが、公的スペースにメモをする。
私は職務上、当該学期の総合的な成績評価、定期試験の監督の補助をしなくてはいけない。ペーパーテスト形式の定期試験の場合、規則によって、不正行為を見つけた場合には管理部署に通報をして処罰をしないといけない。不正行為が認定された場合、岡山理科大学では「その学期の単位はなし+なんらかの『謹慎処分』」が下される*1。半期の単位が全部パーなので、「4年間で学修を終え、卒業すること」に影響が及ぶ可能性がある。
今回の件を見てみると、類似の事例が発生したとした場合、大学として処罰するに当たって、twitter, あるいは一般的なウェブサービスの特性に鑑みて:

  1. 公的スペース*2の性格を理解していなかった愚かなる当人の自白である
  2. 公的スペースの性格を理解している悪意のある第三者による、当該の学生を陥れるためのでっちあげである
という二つの間の区別がいかなる場合でも可能であるのか*3。両者の区別ができない時点では、大学当局としては処分が下せないだろうし、万が一間違って処分を下した後で処分の撤回と単位の回復ができるのであろうか*4。「見た目」だけでは100%の正確さでの判定ができない。アクセスログが追跡できるならば、ある程度の同定はできるだろう(海外発のウェブサービスの場合どうなるんだろ?)。ツイート源追跡が難しい場合、当該学生本人を呼んで査問をしなくてはいけないだろう。
さてボク自身はこう考えている*5。処罰の目的は「教育」である*6。ここでの「教育」の目的のひとつは「市民の育成」である*7カンニングは学校の根幹である知的水準の保証のシステムに対する重大な挑戦である。不正を許せば成績評価のシステムへの信頼が揺らぐ。つまりカンニングをするものは、自分の低価値を粉飾するのではなく、同級生の能力の証明に対する信頼性をつぶそうとしているのである。先生よりはむしろ、同級生、先輩、後輩にとって迷惑なのである。自らの価値のよって立つ公共の基盤に対する背信行為であるから、システムの側としては「全単位取り消し」という重罰で臨まねばならない。公共財としての学校システムに対する理解を身をもって深めてもらいたいのである。


今回の騒動は、騒動になっただけにボクの目にも容易にとまったのだが、現実問題として対応を迫られた場合に、対処に難しい部分がありそうだ。いままでのカンニングへの対処のノウハウには存在しない要素、ウェブ技術の特性、ウェブ利用の容易さを想定して推理しなくてはいけない部分があると感じた。

*1:その科目だけでなく「単位全部なし」の理由はボクにはよく分からない。当該学期全科目「推定有罪」という考えをとっているんだろうか?

*2:「公的スペース」という表現も非常に微妙なものであり、「学校内での掲示」と「閲覧制限のないウェブサービス」ではソーシャルな文脈での影響も違う。その影響の差の根本の原因のひとつは情報へのアクセスの行動、手順、操作等の容易さであり、「学内での掲示」の場合には、公的な場ではあるが「学内にわざわざアクセスする者」にのみ公開は限定される。これにより公開の範囲は学校のステークホルダー内に「事実上」「物理的に」制限される(100%の制御ではないが)。ちなみに岡山理科大では個人情報保護から掲示板への掲示をだいぶ前に止めた。

*3:今回の事例の場合、前者の蓋然性がとても高いという前提が、客観的「事実」として一人歩きして話が進むという危うさがあるように思えた。処罰を現実に下すことのできる立場の者としては「冤罪」という悲劇に足を踏み込まないかの方が心配。
 ソーシャルエンジニアリング、たとえば学校の設備にログインしたまま席を離れたすきにという可能性もありえるだろう。

*4:学期はどんどん進行し、単位を取り消された講義をもう一度受講することもあり得よう。これは他の講義の受講機会を奪うことである。

*5:個人の意見であり「理科大の公式見解」ではない。個人的意見に過ぎないがオープンスペースで書いておきたい。

*6:刑罰に関する「目的刑」「応報刑」の違いについては、例えばhttp://www.geocities.jp/aphros67/070610.htmを参照のこと。
 ボク自身は twitterはてなブックマークでの「応報刑」的な発想(に読めてしまいそうな短い)コメントの多さに恐怖を抱いた。日本は「市民が主権者である法治国家」なのだろうか。

*7:これについては日本学術会議『大学教育の分野別質保証の在り方について』 http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-k100-1.pdf の教養教育関連の提言を参照