バットマンは無事か?あるいは、巡航速度で着陸を試みるバカはいないことについて

はてぶ界隈で「バットマンは着地できず死亡」、英学生らが物理学で分析が話題になっているが、ちょっと概算してみた。
まず似たような翼を持つハンググライダーのスペックを調べてみよう*1。いろんな機体が売られているが、適当に何個か調べてみた。icaro2000社製のビギナー向けの機体 RX2*2 のスペックを見てみると、翼幅(wingspan)が 9~10[m], 翼面積が 14~18[m2] である。ハンググライダーの巡航速度が「20km/hから40km/h程度で、最高速度はコンペクラスになると100km/hを越せるものもある*3」とのことなので、適当に 20~50[km/h] という値を使ってみる。揚力の公式は揚力 - Wikipediaにあるように翼面積と速度の2乗の積で概算できるから、バットマンの翼のスケールをハンググライダーの約1/2*4で考えると、同じ程度のペイロードを浮かすためには約2倍の速度、つまり 40~100[km/h] の速度が必要になる。記事にある「時速は109キロ*5」は見積もりの上限に近くなる、つまり巡航速度だ*6
…で、ポイントはこんな速度で着陸をかけるパイロットはいないということだ。飛行機だって、鳥だって、着陸の直前にはフレアという操作をする。低速で揚力を稼ぐために、翼を大きく広げ(航空機ならフラップを出して)迎角を失速近く、あるいは失速まで上げる*7バットマンが着陸時にフレアをかけるとすると、たぶん速度は最高でも巡航速度の下限値 40[km/h] くらいになるから、バットマンスーツでガードされてたら大丈夫なんじゃないかな?
…概算、まちがってたら、ゴメンナサイ。

追記 2012.7.14

Kさまからリファレンスの情報をいただいた。ありがとうございます。
この論文で計算されているのは、ビルの上から飛び降りて*8、定常な滑空に移るまでの速度推移であり、単純な力学モデルを使っている。
論文の図を見るとバットマンの「写真」に三角形を上書きして、翼面積を 2.20m2*9 で計算している。翼幅に対して翼面積がハングよりかなり小さめに見積もられている(図を見るとそんな翼形)。ぼくの見積もりより速くなるのももっともだ。時速110km/hというは、かんたんな力学モデル計算で、初期のオーバーシュートの最大値を出しているだけで、著者たちも "At these high speeds any impact would likely be fatal if not severely damaging...." (こんな高速の時にぶつかったらしんじゃうんじゃないかな...)と言ってるだけで「着陸(landing)」とは一言も言っていない。論文には "This paper presents a simple model for use as a feasibility study" (この論文はもっともらしさを見積もるための単純なモデルを提示した)と書いている。
まあ翼面積 2.2m2 しかないのなら、ハンググライダーとのアナロジーを考えても、着陸時はフレアがかかりにくく、減速しないだろうなあ。翼がもうひとまわり大きく、本物のコウモリの胴体と翼、翼形の比くらいになっていたら*10、空力的にもリアル (feasible) かもしれない。バットマンがもうちょっと広く大きな翼でフレアかけながら、ぶわっと威圧的に空から舞い降りてきたらかっこいいかも。


*1:記憶があいまいなんだけど、バットマンが飛んでるとき、翼はわりとかっちりしてたよね?

*2:http://www.icaro2000.com/Products/Hanggliders/RX2/RX2.htm

*3:http://www.oshinoskysports.com/history.html

*4:ロイターの記事中に 4.7[m] とある。

*5:なんじゃ?この半端な数は?

*6:もちろん翼面積を小さく見積もるともっとスピードが出てしまう。学生たちの翼面積の見積もりは小さかったのかもしれない。

*7:落ちても無事な高さで失速して落ちるのが着陸なのさ。

*8:ハンググライダーのテイクオフって、揚力が出る速度を手に入れるために「飛び降り」みたいになる。岡山県の大佐山で初めて見たときはビビった。

*9:有効数字3ケタも出るか?(^^;;;

*10:コウモリ 翼 [Google画像検索]