オイラーの公式と高校数学

教育用の覚書。高校の数学でオイラーの公式 e^{ix}=\cos(x)+i\sin(x) を教えないわけは、多分、複素数の指数というヘンテコなものの説明がつかないからかなあと想像している。たとえば 2^i, 「2を i 回掛け算する」って一体どんな計算だ?*1「冬山登山で1.5人が遭難した」以上にへんな表現だ。まあ高校教科書の指数関数 2^x にしても「 x に実数を代入してよい」という部分に論理の飛躍がある*2
で、話の本題は高校数学IIIまでで学ぶ範囲でどこまでのことが言えそうかということだ。
まず関数の値を複素数に拡張してよいことを鵜呑みにした上で f(x)=\cos(x) + i\sin(x) という独立変数が実数の関数を考えると
f(x) f(y)
= (\cos(x)+i \sin(x))(\cos(y)+i \sin(y))
= \cos(x)\cos(y)-\sin(x)\sin(y) + i (\cos(x)\sin(y)+\sin(x)\cos(y))
= \cos(x+y) + i \sin(x+y)
= f(x+y)
となって「指数法則を満たすこと」は確認できる。指数法則を満たすという条件から形式的には

  • f(0)=1
  • \displaystyle f'(x)=\lim_{y\to0}\frac{f(x+y)-f(x)}{y}=\lim_{y\to0}f(x)\frac{f(y)-f(0)}{y}=f'(0)f(x)
の二つのことが分かる。ここで f'(x)=-\sin(x)+i \cos(x) だから f'(0)=i となる。ここで指数関数の導関数の公式 (e^{ax})'=a e^{ax} に無理やり当てはめると f(x)=e^{ix} というヘンテコな式が出る。指数法則と微分の公式を形式的に満たすので、この式をもとにして微積分の計算を進めることはできなくはない(というか実際に正しい式だからどんどん正しい計算を実行できる)。

正しい式なのだから「発展的な扱い」で数学IIIの教程に入れて微積分をやらせてもいいんじゃないかなあ。これの逆関数を考えることは断念するしかないけど。

*1:2^i=e^{i\ln 2}=\cos(\ln2)+i\sin(\ln2)なのだけどね。\lnは自然対数の国際標準の表記法。
ISOに記されている対数関数の表記法 - あらきけいすけの雑記帳

*2:ボクも高校のときは飛躍があるって気付かずに、先生に言われるがままに鵜呑みにしてたけど。この辺をちゃんと書いた数学の本は、例えば『高校数学+α』『数学:物理を学び楽しむために』がある。その一方で石村園子『やさしく学べる微分積分』に代表されるような、「大学1年向け」の「200ページ程度の厚み」の「やさしく書かれた」教科書では、指数関数の導入が軒並み「見開き2ページ程度」で、論理の飛躍については言及がほとんど無いように思われる(主観でゴメン)。