流体力学のLagrange的速度とは、あるいはボクが引数を明示することにこだわるわけ
「流体の容器」 としてコンパクトな可微分多様体でその上にひとつの大域的な座標系 があるとする*1。初期(t=0)に位置 に存在した流体粒子の時刻 t での位置を とする*2。このとき「流体の動きはなめらかで、容器にすきまはできないし、任意のブロブ(小片)はちぎれない」とすると、 は の滑らかな全単射になる*3。これを「流体粒子の位置写像」と名づけよう*4。
この辺までなら流体力学の教科書やレビューなんかでよく見る。見たこと無いのは基底と引数の値をきちんと書き添えてある Lagrange 的速度の正確な定義式。
Lagrange的速度とは流体粒子の位置写像を用いて次の式で与えられる:
見たら分かるように(反変)ベクトル場の基底の引数と係数関数の引数とが食い違っている。だから Lagrange 的速度は微分位相幾何学的には多様体の教科書にあるような取り扱いに乗せにくい improper な対象である。
この扱いにくさを取り除くために、時刻 t, 点での値がで与えられるような上の関数 (i=1,2,3) を導入する。この係数関数なら引数が基底と一致するので微分位相幾何学の扱いに乗せ易い。この係数関数を用いたベクトル場を Euler 的速度場という*5。
じゃあ、お前はやの空間変数に関する導関数をと書くのか?と問われたら「そうだ。統一的に q を用いて表記する」と答える。ラベル座標 の変数で微分したりとかする気はほとんど無い*6。
引数を書かないことで「関数」と「関数の値」がゴチャゴチャになって足を取られたくないからだ。
[2010.1.17] 随伴表現の具体的な表式
まず M 上の微分同相 g: a → X(a,t) によるベクトル場の右移動の具体的な式
ついで左移動の式
ここで g-1 すなわち X(*,t) の逆写像を g-1: x → A(x,t) とすると、これを用いて g-1 の随伴表現 Adg-1 = L*g-1R*gを具体的に書き下すと
*1:この表記は なので微分位相幾何学的にはおかしい。正確にはMの近傍からへの写像φを用いてと書くべき。ここでは表記法というか略記法というか計算は成分でやるよというかの宣言。大域的だから断る必要もないのかなあ。
*2:この「式」は文字使用法の宣言文。
*3:正確には ね。
*4:宣言文以外では、関数を表すときには引数を書いていないことに留意。引数を書いたら「関数の値」。
*5:Arnoldの『古典力学の数学的方法』の付録では、このベクトル場のでの値をについてまとめたもの、すなわちのによる右移動を Lagrange 的速度と呼んでいる。
*6: だって?。Mの上の座標はqじゃないのかい?これって の での値のつもりかい?それとも導関数そのもののつもりかい?