Lie微分を粗っぽくわかりやすく説明する試み
Lie微分とは多様体の上の関数、ベクトル場, etc(一般のテンソル場)を「流した」ときの変化分のことである。Lie derivative - Wikipediaもその邦訳もわかりにくかったので自分で書いてみる。ただし考え方のアウトラインだけ。
流れから誘導されるのテンソル量の移流の定義は Kobayashi and Nomizu の教科書 Foundations of Differential Geometry Volume I (Wiley Classics Library) の流儀に則っている。
流れを定義する
流体の容器を, 流体の流れをとする。
つまり時刻0にに「つぶ」を置いたとすると、その粒子は流れに乗っていって、時刻に位置まで流されるということだ。
関数、ベクトル場がこの流れによってどう流されるか調べる
流れから誘導される写像(対象のテンソルのランクによらずと表記することにする)を暫定的に「漂流」と呼ぶことにする。*1
関数:関数の値が「つぶ」に凍りついたように運ばれる
ベクトル場:ベクトル場を定義する非常に近い2個の「つぶ」(ととする)が流れに乗って運ばれる。ベクトル場を用いてに非常に近い点の位置をで「定義する」とき*2, ベクトル場の漂流はこの2点の流れ着く位置の微分で定義される:
ここで最後の式のはとなる流れである。
一般のテンソル場:
関数、ベクトル場(反変ベクトル場)、その双対空間としての共変ベクトル場の定義の仕方と、流れの性質を考え合わせるとテンソル積と内積も流れとともに漂流する。つまり次の性質が備わっていることがわかる:
テンソル積とその縮約は、漂流と可換な演算である。
Lie微分を定義する
Lie微分を Kobayashi and Nomizu の教科書(Vol.1, p.29)の流儀で定義する:
ここではでの流体の流れ、つまり「つぶ」の速度を与える場である。
Lie微分を計算する*4^{i}=p^i-t u^i(p)+o(t)], , を代入して、適宜テイラー展開をすれば導出できる。この程度の次数の扱いで、ここでは形式的に導出できてしまう。展開の1次で正しい答が出てしまうことは、教育的にはよろしくないように思われる。というのも、Lie代数の元とLie群の元の関係は指数写像で規定されていて、指数写像の積はHausdorffの公式で処理しないといけないのだが、見た目は1次で答が出るのでそのことを見ずに済んでしまうから。))
まとめ:Lie微分とは多様体を「流体の容器」、流れを「容器の中の流れ」でイメージし、流体とともに流されていく「つぶ」の位置を追跡することである。
*1:流れから誘導される写像の定義が通常と逆になっていることに注意。
*2:という表記は実にビミョーである。実際の計算では、その値を点の近傍のチャートを使って定義する。実はこの表記で伝えたいことがらを、数学的に問題の無い表現に落とし込もうとするから、ベクトル場のLie微分の導出はどの教科書もとっつきにくくなるのである。
*3:\tilde{\phi}_{t}\omega)\otimes(\tilde{\phi}_{t}X
*4:Lie微分の局所座標系における成分表現は、ガサツなやり方だが、点の近傍の座標系での近似式[tex:(\phi_{t}^{-1}(p
*5:本当は「流れ」はからへの関数であり、関数の合成の操作に対して形式的に群の構造を持っている。しかも連続的に変化するものだから形式上は「Lie群」である。そのLie群のLie代数の構造が見えている。ただ、そのことはLie微分の「漂流」的なイメージ全体からすれば、「おまけ」のようなものに感じられる。