「ご冗談でしょう、松田先生!」近日、公開!

随分と前に「誤ったサイフォンの定義」というオーストラリアの大学の先生のデタラメ理論関連の話題が盛り上がったことがあった。これに関してボクもいくつかのエントリを上げた

このうちの理系学部の学部生のためのサイフォンの原理 - あらきけいすけの雑記帳に対して、最近、コメントを戴いた:

なんと松田卓也先生のブログである。物理を学んだ者なら知らぬ者のないビッグネームなのでビックリ。佐世保で高校生だった時にブルーバックスの『相対論的宇宙論』を見てチンプカンプンだったことを思い出した。その後、ぼくは(不本意ながらも)堀川丸太町で1年、北白川で(あろうことか)9年勉強した。でもあんまり賢くなったとは思えない。
さてさて、松田先生のブログであるが、思いっきり「(あらきは)正しくない」と書かれてしまった。あらきがアホであるのは自明なのだが、松田先生の議論も思いのほか酷いのでビックリした。日本物理学会と日本流体力学会の学会費を払っている身としては、このエントリに応えないのは流体の研究仲間に対する不誠実のように思われるので、エントリを準備している。のんびりと待って下さい(括目して待ってドライアイになっても知りません)。


2013.12.14追記

松田卓也さま
コメントありがとうございます。コメントに言及されているブログエントリ、追記も拝見いたしました。
> 突然の私のブログ記事に気分を害されたであろう事、科学的論争だと思って、お許しください。
わたくしも初めから科学的論争であるとして拝読しておりますので、そのことについては大変、歓迎をしております。もしあらきが気分を害しているとすれば、それは議論の杜撰さにあると考えております。これがあらきがその著作を通じて知る松田卓也先生と同一人物なのであろうかと。
とくに「サイフォンを巡る誤概念・・・大気圧説も鎖モデルも間違い」の「2013/12/13 追記」の部分にある、

粘性を入れると、粘性が小さい限り、非粘性の結果に対する小修正という結果が得られるはずだ。
というステートメントを読んで目が点になりました。ジャンボジェットを知らないのかと。ダランベールパラドックスを知らないのかと。どんなに高レイノルズ数の流れにおいても、壁面を持つ問題においては境界層の効果をないがしろにしてはいけない。流体力学においては非粘性の極限は慎重に扱わないといけないものです。サイフォンにおいても、パイプの径を大きくしても、この問題から逃れられるとは思いません。粘性・非粘性の解の間にある大きな質のギャップは、流体力学の式をいじり始めた初学者のときから、きちんと仕込まれねばならない「研究者の常識」だと考えていたので、非常にショックです。
また複数のエントリを突き合わせて読んでみると、松田先生は流体力学・流体工学の分野で「ベルヌーイの定理」という名前が多義的に使われていることに無頓着であるように思えます。
流体力学の理論屋にとっては Euler 方程式の初期値・境界値問題の「縮みなし」「粘性なし」「渦なし」「時間変化なし」の解の性質ですが、工学の分野では「流量」「損失」を見積もるための、乱流状態を平均化して概算をするための簡便な「バランス方程式」です(後者の意味では、慎重な教科書は「ベルヌーイの定理」ではなく「ベルヌーイ式」と書いています)。
これについては拙ブログでは「サイフォンについてのいくつかの蛇足」 http://d.hatena.ne.jp/arakik10/20100523/p1 の中に「追記2010.6.1:水理学業界では…」、および「Wikipediaのサイフォンの原理の説明が書き変わっている…が記述としては酷いまま」 http://d.hatena.ne.jp/arakik10/20110111/p1 の「通りすがりの推理業界人」さんのコメントの下にコメントしています(とくにこの後者の「業界人」さまの2番目のコメントとあらきのコメントを無視して「業界人」さまの最初のコメントのみをブログに引用されているのは、とてもとてもとてもとてもとてもとても不愉快でした。自分に都合のよいステートメントだけひっぱっているのかと)。
水理学の「ベルヌーイ式」では p は熱力学的な圧力だけでなく、乱流による圧力損失や粘性による抵抗(これらは「水頭」として扱われます)も含みますので、同じ流体の式を使っていても、文脈によって p の意味が違うのです。
あらきの一連の「サイフォン」のエントリにおいて、慎重に避けていることが一つあります。それは「サイフォンの管内にどのような流れが形成されるか」ということです。これはパイプの形状、両端の圧力差によって千差万別なので、「下流に向かって流れる」「流体が縮まないので、流量の管断面平均値は管の中のどこでもいっしょ。つまり管径が一定なら管の中では平均流速の加速・減速は無い」「加速・減速が平均としてないので、かかった力はなんらかの抵抗とつりあっている」ということ以外に「一般的にこうだ」と断言できるものはほとんど無いと考えています。
あらきの基本的立場を述べると、「サイフォンの動作原理をベルヌーイの定理(あるいはベルヌーイの式)で説明するのは間違い」「与えられた条件化でサイフォンの動作、たとえば流量や圧力損失等をベルヌーイの式を用いて計算するのは正しい」です。
とにかく「サイフォンの動作原理」に関するまとめのエントリは必要だと考えております。

2014.1.10追記

松田先生のエントリの検討も書き上げたところで、ここにリンクを付けようと思ったが、1年間で一番、多忙な時期に入ったので先生のエントリの検討の執筆は先延ばしにする。2014.1.1にアップしたサイフォンの原理と動作と誤概念についてまとめた部分へのリンクを付ける。

サイフォンの原理とそれにまつわるいくつかの誤概念について - あらきけいすけの雑記帳