部分分数分解 (partial fraction decomposition)

部分分数分解の要点は有理関数の分母に因数(x-a)mがあったら(これを「x=aでm位の極を持つ」という)、その関数を
    \frac{Q(x)}{(x-a)^mP(x)} = \frac{a_{m}}{(x-a)^m} + \cdots + \frac{a_{2}}{(x-a)^2} + \frac{a_{1}}{(x-a)^1} + \frac{q(x)}{P(x)}
と(x-a)の1次からm次までの分数関数の和に分解できるということ*1。ただし左辺の Q(x), P(x) の因数分解は(x-a)を含まないし*2、分子 Q(x) の次数は分母 (x-a)mP(x) より小さいとする。

例題:\frac{8}{(x+1)(x-1)^3}を部分分数分解せよ
解答:\frac{4}{(x-1)^3}-\frac{2}{(x-1)^2}+\frac{1}{x-1}-\frac{1}{x+1}
この分数関数はx=1で3位の極、x=-1で1位の極だから、\frac{A}{(x-1)^3}+\frac{B}{(x-1)^2}+\frac{C}{x-1}+\frac{D}{x+1}の形に式を変形できる。通分すると解ける。が、わずらわしいので「 Heaviside の方法(Heaviside's cover-up method)」を使って係数を決めよう(ここでヘヴィサイドの展開定理 - Wikipediaは間違っているので参照してはいけない。)*3。まず
\frac{8}{(x+1)(x-1)^3}=\frac{A}{(x-1)^3}+\frac{B}{(x-1)^2}+\frac{C}{x-1}+\frac{D}{x+1}の両辺に(x-1)^3をかけて
 (1) \frac{8}{x+1}=A+B(x-1)+C(x-1)^2+\frac{D(x-1)^3}{x+1}
となる。この両辺にx=1を代入して\frac{8}{2}=A
というわけで、A=4とわかる。次に(1)の両辺をx微分して
 (2) -\frac{8}{(x+1)^2}=B+2C(x-1)+\left(\frac{D(x-1)^3}{x+1}\right)^\prime
となる。この両辺にx=1を代入して-\frac{8}{4}=B, すなわちB=-2と分かる。ここで右辺の第3項の導関数x=1の近傍でx+1\approx2より\left(\frac{D(x-1)^3}{x+1}\right)^\prime\approx\left(\frac{D(x-1)^3}{2}\right)^\prime=\frac{3D(x-1)^2}{2}であるからx\to1で0になる。次に(2)の両辺をx微分して
 (3) \frac{16}{(x+1)^3}=2C+\left(\frac{D(x-1)^3}{x+1}\right)^{\prime\prime}
となる。この両辺にx=1を代入して\frac{16}{8}=2C, すなわちC=1と分かる。ここで右辺の第2項の導関数x=1の近傍でx+1\approx2より\left(\frac{D(x-1)^3}{x+1}\right)^{\prime\prime}\approx\left(\frac{D(x-1)^3}{2}\right)^{\prime\prime}=3D(x-1)であるからx\to1で0になる。
Dの求め方は
\frac{8}{(x+1)(x-1)^3}=\frac{A}{(x-1)^3}+\frac{B}{(x-1)^2}+\frac{C}{x-1}+\frac{D}{x+1}の両辺に(x+1)をかけて
 (4) \frac{8}{(x-1)^3}=\frac{A(x+1)}{(x-1)^3}+\frac{B(x+1)}{(x-1)^2}+\frac{C(x+1)}{x-1}+D
となる。この両辺にx=-1を代入して\frac{8}{-8}=D
というわけで、D=-1とわかる。

追記 2009.8.4

2009.8.4 現在 google 検索上位(部分分数分解 - Google 検索)の中では http://www.nicovideo.jp/watch/sm3369983 がお勧め。金沢工業大学のページはちょっと勧められない。

どうしても解けない問題があったのでご指導お願いします。
  \frac{4(3+3x-x^2)}{(x-1)^2(x+1)}
を部分分数に分解する問題なのですが分子がどうしても求められません。よろしくお願いします。下の式を
  \frac{A}{x-1} + \frac{B}{(x-1)^2} + \frac{C}{x+1}
の三項に分けるのですがBをax+bの形に置いて解くのは間違いでしょうか?
http://w3e.kanazawa-it.ac.jp/math/q-and-a/2003/06/20030627-1.html
たぶん、こんな回答を書いたら学生に嫌われる:
あらきの回答:間違いです…というか意味ないです。
なぜなら\frac{ax+b}{(x-1)^2} = \frac{a(x-1)+a+b}{(x-1)^2} = \frac{a}{(x-1)^1} + \frac{a+b}{(x-1)^2}と書き換えられるので分子に1次式を置く意味がありません。(ところで、この式変形が部分分数分解に他ならないことに気づかれましたか?>金沢工業大学の担当者)
ビサイドの方法だと、広島工業大学の問題(http://next1.cc.it-hiroshima.ac.jp/MULTIMEDIA/calcans/node91.html)の1問目はこう解く:
問題:\frac{7}{(x-2)(x+5)}=\frac{A}{x-2}+\frac{B}{x+5}…(1) のA,Bを求めよ
http://next1.cc.it-hiroshima.ac.jp/MULTIMEDIA/calcans/node91.html
解答:
式(1)の両辺に(x-2)をかけて\frac{7}{x+5}=A+\frac{B(x-2)}{x+5}
この両辺に x=2 を代入して\frac{7}{2+5}=A+\frac{B(2-2)}{x+5}=A+0 ∴A=1
式(1)の両辺に(x+5)をかけて\frac{7}{x-2}=\frac{A(x+5)}{x-2}+B
この両辺に x=-5 を代入して\frac{7}{-5-2}=\frac{A(-5+5)}{x-2}+B=0+B ∴B=-1

*1:証明は1行で書ける:「 \frac{Q(x)}{(x-a)^mP(x)} = \frac{a_{m}}{(x-a)^m} + \frac{R(x)}{(x-a)^{m-1}P(x)} と書ける!以上!」
ここで右辺の\frac{R(x)}{(x-a)^{m-1}P(x)} に全く同じ論法が適用でき、これを必要なだけ繰り返せばよいことに気づけよ、こら!\alphaは実数である必要はない。参考文献:ハイラー, ワナー著, 蟹江訳, 『解析教程(上)』 II.5.1

*2:この「(x-a)を含まないこと」は「Q(a)≠0, P(a)≠0」と言い換えられる。

*3:[2011.1.4]現在、正しい記述に全面改稿されている。