部分分数分解の解法(通分をしないで済む「ヘビサイドの目隠し法」)

教育用の覚書。部分分数分解は分数関数の不定積分や、有理関数のラプラス逆変換(Laplace inverse transform)などで用いる基本的な技法である。

部分分数分解とはと一意に分解すること。ただしP(x)は(m1+…+mn)よりも小さい次数の多項式で分母のどの因数とも約分できないものとする*1
係数の決定法で有理関数を通分して、係数比較をして、係数の連立一次方程式を解く方法は勧められない。なぜなら四則演算の数が多くなり、ケアレスミスのリスクが上がるからである*2。係数決定で一番、明快なものは「ヘビサイドの方法*3」であろう。
問題:\frac{7}{(x-2)(x+5)}=\frac{A}{x-2}+\frac{B}{x+5}…(1) のA,Bを求めよ
方針:分母を0にする因数を両辺にかけて、その解を代入すると、その因数を分母に持つ項の係数が計算できる。
解答:A=1, B=-1 すなわち \frac{7}{(x-2)(x+5)}=\frac{1}{x-2}+\frac{-1}{x+5}
解法:

式(1)の両辺に(x-2)をかけて\frac{7}{x+5}=A+\frac{B(x-2)}{x+5}
この両辺に x=2 を代入して\frac{7}{2+5}=A+\frac{B(2-2)}{x+5}=A+0 ∴A=1
式(1)の両辺に(x+5)をかけて\frac{7}{x-2}=\frac{A(x+5)}{x-2}+B
この両辺に x=-5 を代入して\frac{7}{-5-2}=\frac{A(-5+5)}{x-2}+B=0+B ∴B=-1
例題の出典:http://next1.cc.it-hiroshima.ac.jp/MULTIMEDIA/calcans/node91.html http://next1.cc.it-hiroshima.ac.jp/MULTIMEDIA/calcans/node91.html
係数決定で一番、安直なものは両辺のxに適当な値を代入すれば、係数の1次方程式が得られる。へヴィサイドの方法では重解のときには、最高次数の係数だけが簡単に求まる。
問題:\frac{4(3+3x-x^2)}{(x-1)^2(x+1)}=\frac{A}{x-1}+\frac{B}{(x-1)^2}+\frac{C}{x+1}…(1)
方針:因数が重解の場合はその最大次数を両辺にかけること
解答:A=-3, B=10, C=-1 すなわち \frac{4(3+3x-x^2)}{(x-1)^2(x+1)}=\frac{-3}{x-1}+\frac{10}{(x-1)^2}+\frac{-1}{x+1}
解法:
(1)の両辺に(x-1)2をかけて\frac{4(3+3x-x^2)}{x+1}=A(x-1)+B+\frac{C(x-1)^2}{x+1}…(2)
(2)の両辺にx=1を代入して\frac{4(3+3-1^2)}{1+1}=A(1-1)+B+\frac{C(1-1)^2}{1+1}  ∴B=10
(1)の両辺に(x+1)をかけて\frac{4(3+3x-x^2)}{(x-1)^2}=\frac{A(x+1)}{x-1}+\frac{B(x+1)}{(x-1)^2}+C…(3)
(3)の両辺にx=-1を代入して\frac{4(3+3(-1)-(-1)^2)}{(-1-1)^2}=\frac{A(-1+1)}{-1-1}+\frac{B(-1+1)}{(-1-1)^2}+C  ∴C=-1
(1)の両辺にx=0を代入して\frac{4(3+0-0)}{(0-1)^2(0+1)}=\frac{A}{0-1}+\frac{B}{(0-1)^2}+\frac{C}{0+1}…(4)
(4)の両辺に B, C の値を代入して12=-A+B+C=-A+(10)+(-1)  ∴A=-3 *4
例題の出典:部分分数 分解 http://w3e.kanazawa-it.ac.jp/math/q-and-a/2003/06/20030627-1.html

*1:[2011.1.4]Wikipediaの「ヘビサイドの展開定理」の記述が正しくなっている。[2009.11.19追記]Wikipediaの「ヘビサイドの定理」に書かれている式は間違っている。

*2:通分する答案が出回っている理由は「部分分数分解の一意性」が指導要領準拠の高校数学の教科書に記述されていないので、答案上は分解を答案内で検証すべき「仮説」扱いしなくてはならないせいではないかと勝手に想像している。

*3:Heaviside's cover-up method と呼ばれている。訳は「ヘビサイドの目隠し法」くらいか?部分分数分解は「へヴィサイドの定理」ではない。

*4:ビサイドの方法に忠実にAを出すとすればA=\lim_{x\to1}\frac{d}{dx}\frac{4(3+3x-x^2)}{x+1}となる。ヘビサイドの方法の詳細はここに書いた⇒部分分数分解の算法は Heaviside の展開定理ではない*1 - あらきけいすけの雑記帳